新作冒頭1800 | 折羽ル子とケモノノノベルズ

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新作冒頭1800


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折羽ル子です、こんばんは。
さて、全然ペースがあがらなくてマズいので、新作の冒頭部分でも載っけてプレッシャーかけてみようと思います。
といえばまぁ聞こえは良いですが、要はただの宣伝。
今回は割と一般性があるかなぁって本で、表紙もまぁ、うーん。まぁ一般性があるかな?
週末あたりには公開したいと思っています。
「キミに出会って、世界の何もかもが変わってしまった」
 冷たい空気と明るさを増す朝の空、レミは恋の始りにありがちな気持ちを特別な事として感じていた。
 世界の全てが自分を祝福しているようで、目に入る全てのことが恋のメッセージのようで、兎に角気分は良い。まだ彼に恋心は伝えていないけれど、好きという気持ちがあるだけでしあわせだった。ドキドキが連鎖し心は高揚。考えれば紅潮する自分の姿に鏡を見ることが出来ない。
 
恋は盲目、だけど結婚はその目を開かせてくれる。確かそんな文句だったフランスの格言を思い出し「きゃあ!」とレミは悶えた。付き合ってもないのに結婚だなんて!
 なんだかわからないこの気持ちに感じるのは背徳心。悪さをしてならバレるまで何時ものことだけれど、そんなんじゃあない特別を感じさせるドキドキ。
 考えているようで、ただぐるぐると同じ言葉の繰り返しがメリーゴーラウンド、それが今のレミの思考だ。好きかも好きかも好かれてるかも。
 かもしれないが好き。目線が合えば愛されてる。会話が出来れば?出来れば?
 それ以上考えることは運命を規定することだとレミは思う。可能性を絞りたくない。無制限に夢を見たい。良いコトがキミの言う可能性なら大歓迎だけど、想像できる幸せなら嬉しくないよ。恋から愛まで心のカタチは上昇する。その通り道の予定はいらないよ!
 しあわせの道筋は判らないまましあわせになりたい。地図もスケジュールも邪魔。きっと未来に交わされる、囁きの一つ一つで恋愛を育みたい。
 ほら、朝はあたしを祝福してくれるから明るくなる時間、すてきな今が愛される瞬間。それは永遠?愛は永遠!
 そしていつしか今日も十六時、ここは通りに面したカフェ。
 夕焼け前の少しずつ横向きになる日差しがメロンソーダをジリジリ溶かしていく。レミはデザートを少しずつ食べ、緑色を一口に満たないほど含んではため息を繰り返す。ストローの包み紙を蛇腹のように外し、水滴をかければ伸びる遊びももう終わった。デザートの周りの苦手な生クリームをスプーンでこそげ落としつつ思う。
「あんなに好きだったのに、甘さが判らない。もっと好きの前で、いままでの好きはかすれちゃう」そして大きくため息をついた。
「キミが苦手なことだけがずっと変わらないことだよ」すっかりクリームの剥がれたプリンは、同時に甘さも剥がされたかのようだ。
 ガラス越しの日差しがグラスと作る影は少しずつ伸びていった。表面に無数に付く水滴は少しずつ大きくなり、限界に達しては重力のままに零れてはテーブルを濡らしていく。一秒は一分に、一分は一時間に感じられた。針の音の隙間が聞こえる。隣のテーブルの話し声が、その下心まで声に出ているように聞こえる。レミの全ての神経は何もかも漏らさないほどに研ぎ澄まされていた。何度目かの時計とのにらめっこの末、レミは突然立ち上がった。「時間だ」
 カフェから薄暗くなる街へ飛び出し、何か用があってそこに居るかのように立ち止まるレミ。街のざわめきは次第に大きくなり彼女を包む。目を閉じて俯き耳を澄せば喧噪の中の足音、その中の一つが次第に明確になっていく。はっと顔を上げれば、目前に大好きな彼がいる。彼はレミのことに気付いているだろうか。レミが彼のことを「横顔と、そしてこの時間にこの場所を通る」という、ただそれだけの情報しかもたないなりにも好きな気持ちが大きくあるように、彼にもレミへの恋焦がれる気持ちがあるかもしれない。それは判らない。あればいいな。
 好きな気持ちはドキドキ。だからこそ気付かないふりをして通り過ぎる。何時の日か一緒に暮らす未来に「あの時お互いが正直だったらもっと早くから仲良く出来たよね」って語らうことがあるのだろうか。その時二人は何を思う?時間が掛かった惜しい気持ちと、言い出せなかった甘酸っぱい日の記憶をもう一度思い出す?毎日この瞬間に心を巡る無数の思考、こんなにもモノを考えた事ってあったかな。何もかもが正しくて何もかもが違ってそうで、今日もただ通り過ぎる彼を見つめ後ろ姿を眺めるだけなの?
 彼が通り過ぎるあとに残された空気の甘さは愛おしい。まだ離れる前のタイミング、声をかける?手を伸ばす?何もかもが無理!こんなに近くてだけど遠い人!
 まだ名前も知らない。きっと彼もレミの名前を知らない。
 きっかけを作りたいけど、やっぱり無理。
 ほんのちょっぴり距離を壊すための勇気はまだレミには無い。まだ臆病なままだ。
つづく




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